1.脳ニコチン受容体を対象とした放射性分子プローブ開発・生理機能の解明研究

脳に存在するニコチン性アセチルコリン受容体(ニコチン受容体)は、記憶・認知などの高次脳機能に関与するのみならず、鎮痛・神経保護など多様な生理作用を担っています。具体的な疾患との関連では、アルツハイマー病やパーキンソン病でニコチン受容体が減少することが報告されています。このように多様な生理機能、および疾患と密接に関わっているニコチン受容体に対するイメージングプローブを開発し、それを用いてニコチン受容体の担う生理機能や関連する疾患の病態メカニズムを解明する研究を行っています。

発表した研究成果(原著論文・総説・著書)
・Bioorg Med Chem. 27(11): 2245-52 (2019).
・Mol Imaging Biol. 21(3): 519-528 (2019).
・Nicotinic Acetylcholine Receptor Signaling in Neuroprotection (Springer). 17-44 (2018).
・Horizons in Neuroscience Research, Volume 26 (Nova Science Publishers). 117-134 (2017).
・Nucl Med Biol. 43(6): 372-8 (2016).

2.がんの早期診断・質的診断のための生体分子イメージングプローブの開発

がんは日本人の死因の第1位であり、根治可能なステージで発見できる早期診断法の開発が求められています。また、がんに対する新しい治療薬も種々開発され、効果を上げていますが、それらはがんに発現する特定のタンパク質を標的にした分子標的薬であり、治療適用となる患者を適切に選別する手法の開発も求められています。当研究室では、前がん病変からがんに至る過程で発現が亢進するタンパク質や、分子標的薬による治療標的となっているタンパク質に結合する放射性薬剤・MR造影剤を開発し、がんの早期診断や質的診断に繋げる研究を行っています。

発表した研究成果(原著論文・総説・著書)
・Ann Nucl Med. 34(8): 575-582 (2020).
・Bioorg Med Chem. 28(1): 115189 (2020).
・Nuclear Oncology (Wolters Kluwer Health). 616-621 (2014).

3.がん中性子捕捉療法のための診断・治療用プローブ(セラノスティックプローブ)の開発

がん中性子捕捉療法とは、がん細胞にホウ素薬剤を選択的に取り込ませ、中性子を照射してホウ素に核分裂を起こさせることでがん細胞を選択的に死滅させる治療法のことで、手術・化学療法・放射線治療に続く新たながん治療法として期待が高まっています。現在臨床使用されているホウ素薬剤の腫瘍移行量や選択性が必ずしも十分ではないことから、より高く腫瘍に取り込まれるホウ素薬剤(=治療薬)開発および、その移行量を非侵襲的に評価できる診断薬開発を行っています。

発表した研究成果(原著論文・総説・著書)
・Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A. 1045: 167573 (2023).

4.リポソームからの薬剤放出をインビボで可視化するための手法開発

リポソームは脂質二重膜で構成されるナノ粒子で、抗がん剤を内包させることで、抗がん剤の腫瘍移行量の向上や副作用の低減など、様々なメリットがあることが報告されています。一方で、抗がん剤がリポソーム内部に留まったまま腫瘍に集積しても抗がん効果は得られないため、リポソーム抗がん剤の開発を効率的に進めるためには、抗がん剤の腫瘍内濃度を測るだけでは不十分で、抗がん剤がリポソームから放出されているかどうかを評価できる系が必要です。当研究室では、リポソーム膜と内包抗がん剤を同時かつ個別に検出することで、リポソームの薬物放出性を評価できる手法開発に挑んでいます。

発表した研究成果(原著論文・総説・著書)
・Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A. 1040: 167181 (2022).

5.終末糖化産物受容体(RAGE)を標的とした放射性分子プローブの開発

終末糖化産物受容体(Receptor for advanced glycation end products: RAGE)は、アルツハイマー病、がん、糖尿病、心血管疾患など、種々の疾患の進展に関与することが知られています。当研究室では、各種疾患の診断や病態解明につながることを期待して、RAGEを標的とした放射性分子プローブを開発しています。